2026年9月、英フィナンシャル・タイムズ(FT)の報道をきっかけに、サウジアラビアが中央銀行間の国際決済基盤「mBridge(エムブリッジ)」から実質的に離脱していたことが明らかになった。CBDCとは?で解説している通り、CBDC(中央銀行デジタル通貨)は各国中銀が発行するデジタル通貨だが、mBridgeは中国・香港・タイ・UAEの中央銀行と国際決済銀行(BIS)が共同で構築した、複数のCBDCをまたいで国境を越えた決済を行うための実証基盤である。
サウジ中央銀行(SAMA)は現地メディアに対し、「試験は実際の資金移動を伴わないテスト環境で実施され、計画されていた参加範囲の完了とともに2025年5月13日にmBridgeへの参加を終了した。以降のフェーズには参加していない」と説明した。これは2024年6月にBISとSAMAが「サウジアラビアはmBridgeの正式参加国になった」と発表し、プラットフォームが実際の取引を行える「最小限の実用製品(MVP)」段階に達したとしていた内容と食い違う。BISの発表から16か月間、この離脱は加盟国のいずれからも公表されないままだった。
mBridgeは2024年6月のMVP稼働開始から2025年末までに、4,868件・総額約670億ドル相当の国境を越えた決済を処理したが、その96%は人民元建てで、1日あたりの取引件数は8~9件にとどまる。BISは2024年10月に多国間の監督機関としての関与を終えており、人民元決済が圧倒的多数を占める中で中国人民銀行(PBoC)が事実上主導する体制になっている。サウジアラビアの離脱は「脱ドル化」とは直接関係がなく、同国は引き続き1,424億ドル規模の米国債を保有し、通貨もドルに連動させている。技術的には機能しているものの、人民元以外の通貨での実需はほとんど生まれていない実態が、今回の一件で改めて浮き彫りになった。
サウジアラビアのように参加を表明しながら実質的な取引を行わずに離脱する国が出てきたことは、CBDCの国際決済基盤が「参加国リスト」と「実際の利用実績」の間に大きな乖離を抱えていることを示す事例といえる。他の国のCBDC導入状況はこちらで、各国の最新動向をまとめている。