監視される前に監視せよ──CBDC（中央銀行デジタル通貨）の拡大と人権への懸念

2019年にはごく一部の中央銀行しか関心を示していなかったCBDC（中央銀行デジタル通貨）。しかし今や、世界139以上の政府が導入を検討または開発中であり、その多くが権威主義的な政権であることに注目が集まっています。

この急速な広がりに対し、Human Rights Foundation（人権財団）は2023年に「CBDCトラッカー」を公開。とくに市民の自由を脅かす可能性がある国家において、CBDCがどのように使われているのか、あるいは使われようとしているのかを監視する取り組みを続けています。

CBDCは単なるデジタルマネーではありません──政府が個人の支出すべてを追跡可能にする潜在的な監視ツールとなり得るのです。導入の背後にある政治的意図と、国際的な動きについて、本記事で詳しく解説します。

以下は、記事「Tracking CBDCs before they track you」の要点をまとめた日本語のまとめ記事です：

近年、世界各国の政策立案者たちは、中央銀行デジタル通貨（CBDC）の導入に熱を上げています。2019年以前はごくわずかな中央銀行しか関心を示していませんでしたが、現在では139以上の政府がCBDCの開発に取り組んでいるとされています。

こうした動向に警鐘を鳴らすべく、Human Rights Foundation（人権財団）は2023年に「CBDCトラッカー」を立ち上げ、とくに権威主義国家における進展を監視し続けています。

CBDCは、中央銀行が直接発行するデジタル通貨であり、政府が運営・管理する「デジタル版法定通貨」です。一見すると利便性が高いように思えるかもしれませんが、現金のような匿名性や取引の最終性は持ちません。そのため、国家が市民の金融活動を直接追跡できる仕組みとなりうるのです。

政府関係者の発言からは、現金の排除と金融統制がCBDC導入の主目的であることが読み取れます。

たとえばイラクでは、首相の経済顧問が「紙幣の段階的な代替としてCBDCを進める」と発言し、支出傾向の追跡も可能になると明言しました。同様の姿勢はパキスタンやナイジェリア、ベラルーシなどにも見られます。

ベラルーシは2026年までにCBDC導入を目指しており、政府高官は**「国家が資金の流れを追跡できることが非常に重要」と述べています。このような発言は、政府が言論弾圧や反体制派の監視にCBDCを利用する可能性**を示唆しています。

実際、2020年以降のベラルーシ政府による抗議デモの弾圧・メディア弾圧・口座凍結の実例を見ると、CBDCの悪用リスクが現実味を帯びてきます。

多くのCBDC推進国では、ビットコインなどの暗号資産の利用を同時に禁止する傾向があります。中国やイラン、ナイジェリアでは暗号資産に対するさまざまな規制が行われ、政府以外の選択肢を封じる動きが進行中です。

こうした状況を受け、Human Rights Foundationは「CBDCトラッカー」を通じて各国のCBDC開発状況と同時に人権状況も公開。監視が進む前に、市民が状況を把握し、監視し返すための手段を提供しています。

まとめ

CBDCは金融イノベーションの一形態ではあるものの、政府による監視と抑圧のツールにもなりうる強力な手段です。導入の進行が加速する今こそ、市民の側がそのリスクに目を向ける必要があります。

「彼らが私たちを追跡する前に、私たちが彼らを追跡しよう」──
このメッセージは、民主主義と自由を守るための重要な一歩となるでしょう。